新海誠ファンによる「君の名は。」の楽しみ方と考察

君の名は。

もう、これだけ盛り上がりきった中で今さら感たっぷりですが、「君の名は。」を見てきました。

新海さんのファンとしてはBlu-rayで手元に置いておきたいと思っていたので、忙しさにかまけて映画館での鑑賞はスルーしていたのですが、やっぱり大きなスクリーンで見てみようかなということで行ってきました。

セリフまわりやストーリの展開なんかは安定の新海節全開でファンにとっては嬉しい限りなのですが、物語の途中から気になっていたのはたった一つ。

それは、「この物語は救いがあるのかどうか」ということです。

 

新海誠監督の作品のベースにある別れや喪失感

新海さんの作品はどれも見終わった後になんとも言えない「救いのなさ」が残ります。

作品ごとにテーマはあると思うのですが、通じ合ったはずの二人の別れや喪失感が描かれることが多いので、物語の後半からはある種の切なさが漂うんですよね。

そして、どの作品も完全なハッピーエンドでは終わらないという(笑)。

ほしのこえ」をはじめとして、「雲の向こう、約束の場所」「秒速5センチメートル」もそうでしたし、この切なさこそが新海作品の真骨頂なんですけど、「星を追う子ども」なんかは切なさを通り越して後味の悪さみたいなものすらありました…。(新海作品の中で唯一、星を追う子どもだけは買ってないし)

言の葉の庭」も「え?終わり?」みたいな感じでスッキリしなかったですしねぇ。

今回の「君の名は。」でも、前半の微笑ましくニヤケちゃうような展開から、後半の「今回もまた救われないのか」的な雰囲気になってきた時の切なさときたら…ねぇ。

「きたきた…」と思いながらも魂揺さぶられまくりです。ポジに転んで欲しいと思いつつも、実績ベースではネガだろうなとか思いながら見てました。

風が演出する空虚な空間

新海作品といえば背景美術。背景美術の美しさが、切なさを増長させるんですよね。

前作の「言の葉の庭」では雨の描写がものすごく印象的でしたが、今回はまたいつもの空虚な空間の描写が戻ってきました(笑)。

人気(ひとけ)のない広がりのある空間というかなんというか。「ほしのこえ」や「雲の向こう、約束の場所」、「秒速5センチメートル」の「コスモナウト」の草原とかね。

空の記憶

こうした空虚な背景を演出しているのが「風」なんじゃないかなと思うんですよね。爽やかな風でも涼しげな風でもなく、寒々しささえ感じる風。

隕石を見つめる草原に吹く風。

この風の寒々しさも「救いのなさ」を感じさせる要因の一つなのかもしれませんね。

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「君の名は。」に込められた期待

オチを書いてしまうとネタバレになってしまうのですが、公開からもう3ヶ月だし、ということで…。

救いの有無という点から見ると、「秒速」の方がインパクトに残る作品だなと思います。貴樹と明里らしき女性のラストシーンの「やっぱり…」という残念かつ納得感のある「微妙な救いのなさ」が、心にひっかかりを残すという意味で。

その点、「君の名は。」は最後の最後で救われたので、いい終わり方だったけど、その分心への引っかかりは少ない作品になったんじゃないかなというのが見終わった直後の率直な感想でした。

でも、救われたことによって、ぼくの中には新たなひっかかりができました。

もしもいつものように、見た人に考えさせるような、ある意味突き放した終わり方であれば新海誠ワールドを満喫して終わりだったのかもしれません。

ほしのこえ

この映画がここまでヒットした背景には、東日本大震災に対するみんなの思いがあるんじゃないかなって思うんですよね。瀧と三葉によって未来が変わったことに心が救いと願いを求めているのかもしれないって。

少なくともぼくはそう感じています。

これまでの作品は、結論は見ている側に委ねられていました。委ねられたとしても、新海さんの作品のラストに爽快感を感じる人はいないと思うんですよね。

ハッピーでもバッドでもない終わり方なんだけど、ほとんどの人が「現実的に考えれば、まぁやっぱりうまくいかないよな」ってアンハッピーな結論を導き出して納得してしまうというか。

でも、今回の作品に関しては、新海さんは明確にハッピーな終わり方を描いたわけです。みんなの救いと願いに応えるためには、見ている側の解釈に委ねるのではなく、最後に瀧がすれ違ったのは三葉だということを明示する必要があったんですよね。

ご本人も希望を込めた物語を描きたかったとおっしゃっています。

以前、新海さんの講演を聞きに行った時に、「星を追う子ども」がどうしてあのような演出になったのか、つまり、なぜジブリライクになったのかについてお話をされていました。

「より多くの人にメッセージを届けるためには、そうした批判を覚悟の上で、人々に受け容れられる表現に寄せていこうと思った」というような趣旨だったと記憶しています。

今回は表現ではなく、メッセージの強さでより多くの人に受け容れられる作品になったんじゃないかなぁと。

「君の名は。」はBlu-rayを買ってもう一度見たいなぁと思います。

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この記事を書いた人

橋本 敬BridgeBookJP
デジタルガジェットやカメラ、写真、文房具などが大好きなWEBプロデューサー。浦和レッズサポでもあります。